俺のペコリーナ

「あ、あ、あ、うん…」ヤバイ、ペコリはやばい。

四年ぶりに実家に帰省したダイスケを迎えたのは、家中に広がるカレーの匂いと、見知らぬ若い女の子だった。妹の友人ユイ。裸足で家に上がり込み「ペコリ」と頭を下げて笑う彼女は、明るくて人懐っこく料理が得意。突然、二人きりの同居生活が始まった。食卓、リビングでのトランプ遊び、日帰りドライブ、一緒に過ごす楽しい時間の隙間に、ユイの孤独と不安を見たダイスケの心に、ある強い想いが生まれた。

#エモチックコメディ
#俺のペコリーナ
#広ヒロスケ

俺のペコリーナ©︎広ヒロスケ著 Amazon Kindleストア99円 Kindle Unlimited対応

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 実家に着いたのは昼過ぎだった。

 連休の帰省は四年ぶり。家に入ると誰もいない。なんだよ、せっかく帰ってきてやったのに。

 七時間も運転して腹が減った。ダイニングからカレーの匂いがする。鍋を温めなおし、とりあえず食おうとしたその時だった。

「ただいまぁー」

 誰かが帰ってきた。若い女の声。俺にはジュンという名の五つ下の妹がいるが、声が違う。

 誰だ?玄関を覗くと、見知らぬ女性。

「えっ?」

 驚き見ていると、その娘はカマチをまたいだところで立ち止まり、靴下を脱いだ。脱いだものはそのまま放置し、ヌシヌシと室内に入ってくる。靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ、裸足になった。

 おい、おい、おい、なんだこの娘?

 彼女はダイニングテーブルでひとり飯を食っている俺を見つけて言った。妹と同じ歳の頃だ。

「あ?お兄ちゃん?」

「お兄ちゃんって、君、誰?」

「私、ユイって言います、よろしくお願いします、ペコリ」

 彼女は礼儀正しく、きちんと頭を下げて挨拶をした。

「ゆ、ユイ?」

「ジュンちゃんの友だち…、あっ、妹さんの友だちで、最近お世話になってます」

「あ?そーなの?」そんな話、聞いていない。

「お兄ちゃん、カレー食べてるの?」俺の皿を見ながらその娘。

「え、うん」

「私、作りました!」

「あ、そーなの?」

「うん、そーなの、美味しいですか?」

「あ、美味いです」

「よかった、サラダもありますよ。食べますよね?」

「あ、うん」

「今、準備しますね」

「あ、ありがとう、どうも…」戸惑うじゃないか。

 冷蔵庫からボウルを出し、マカロニのサラダを盛り付けてくれる。なんか手際がよい。

「さ、どーぞ」

「ありがとう、あれれ?めちゃくちゃ美味いなこれ」

「キャ!ホントですか?」

「なんかレストランで食べるような味だな、うん、美味いです」

「うれしーい♪」

 それは、本当に美味しかった。マカロニがプリプリ、茹で玉子は黄味の味が濃い、ハム、きゅうり、人参が同じ細さで揃ってる。

 なんだろうこの甘みは?俺は仕事柄、食材にはうるさい。

「ねえ、隠し味した?」

「お兄ちゃん、分かるの?すごいね」

「俺、一応、食品会社勤務だから」

「あ、そっか、そうでしたね、ジュンちゃんに聞いてました、えっと、あのね、このサラダにはヨーグルトを混ぜてみましたッ」

「ヨーグルトか、甘酸っぱくて美味しい、優しい感じだし」

「ほんと?うれしーい♪」

「すごいね、自分で色々試してみるタイプなの?」

「はい、私、料理が好きで」

「そりゃイイね!」

「ヨーグルトの代わりに、フルーツ系のお酢でもいいな、って思いました」

「流石だね」

「ヤダ、褒められちゃった、うれしーい♪」

「カレーも美味いね」

「はい、カレーの隠し味はですね…」

「待って、当ててみる」

「ほんと?どうぞ!」

 ひと口食べる、どこか懐かしい味だな…食べ慣れた味…そうだなあ…甘くて…ニンニクで…うーむ、鼻から抜ける時のこの感じ…もうひと口、モグモグモグ、と。

「お、わかった、焼肉のタレだな?」

「ピンポーン!大正解!お兄ちゃん、スゴイねっ!」

「マジか!当たったか!ワハハハハハッ!」

「うふふふふ♪」

 その娘も笑った。なんだよ、なんだよ、可愛いじゃんかよ、楽しいじゃんかよ。

 その時、玄関から声。ただいま、ああ、疲れたぁ、と、お袋と妹が帰ってきた。

「あー、ユイ、また玄関で靴下脱いでる!」とは妹の声。

「あ、やっちゃった」とユイちゃんは肩をすくめて、テヘヘと舌をだす。やっぱこの娘、キュートかも。

 

 お袋とイモが、俺の顔をみて、ダイスケ、おかえり、兄スケ、久しぶりじゃん、などとは言うが、俺との久しぶりの再会には、それほどの感慨も見せない。妹は、俺を兄スケと呼ぶ。

「母ちゃん、久しぶり。イモ、ただいま」俺は妹をイモと呼ぶ。

「お兄ちゃん、お帰りなさい」ユイちゃん、改めて言ってくれる。

「あ、うん、ありがとう」

「あら?ふたり、知ってたっけ?」お袋が俺らを見ながら。

「あ、さっき」とユイちゃん。

「帰ったら誰もいないしさ、腹減ったから、そこにあったカレーを食ってたらさぁ」俺の話に続けて「そこに私が帰ってきました」とユイが説明。

「で?自己紹介は?」イモ。

「あ、さっき、ね?」ユイが俺を見る。

「そうなんだよ、ユイちゃんが作ったカレー、めちゃくちゃ美味いよ、あと、サラダもさ」

「ほんとユイは料理が上手、もうウチらは作らない方がいいんじゃないか、って思うレベルなんだよね」

 

 なるほど、お袋とイモも、最近はユイの料理を食っている。彼女は居候かなんかか?

 見るとリビングの隅に、旅行用バッグが二つ置いてある。随分デカい。誰の荷物だ?イモが俺の視線に気づき、半笑いで言った。

「あのさ兄スケ、私とママ、これから旅行に行くんだよね」

「えっ?何だよ、それ」

「ビンゴ大会で、タイ旅行が当たったのよ」お袋が当てたのか?

「俺、四年ぶりに帰って来たんだけど?独りにすんのかよ?あんまりじゃね?」

「兄スケ、タイミング悪いねぇ」イモ、唇を歪めて笑いやがった。

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