デキちゃった〜彼がアタマを丸めた日〜

え?!生理来てない?

妊娠発覚で大パニックのミユと、ボーッとした男だったが、突然“覚醒”して坊主アタマになり正社員まで勝ち取った彼氏マサハル。産後の寝不足・肥満・嫉妬・謎の隣人観察に情緒は大渋滞、ティッシュ箱は毎日クラッシュ状態。それでも彼の優しさとド直球の愛が、新妻、新米母ミユのぐちゃぐちゃの心を溶かしてゆく。

#エモチックコメディ
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#広ヒロスケ

デキちゃった〜彼がアタマを丸めた日〜
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 デキちゃった。

 避妊に失敗してた。子どもの父親は、付き合って三ヶ月の彼、マサハルだ。マー君と呼んでる。間違いない。彼としか、そういうことをしていないから。

 え?!生理来てない?

 気がついたときの、あんなに恐ろしい感じ、人生でお初だった。何ともいえない感情が、一気に背骨を走った。その衝撃ったら、物凄くて、眼の球が震えて、景色が歪んだ。

 とっさに思ったことは「準備が出来てないよ」ということだった。結婚のことも、お金のことも、仕事のことも、親との関係も、問題は、何もかもが、手つかずのままだから、私、先月、二十歳になったとこだけど、今はまだ無理、と思った。

 妊娠は、ほぼほぼ間違いない。直感的にわかる。もし今、この子宮に赤ちゃんがいるんだったら…。この子は、私のこの、後ろ向きな感情に気がついただろうか。お腹に手をおいて、語りかけてみた。

「ゴメンね…」と。

 初めての言葉が、コレかぁ…申し訳ない気持ちでいっぱい。

 でも、どうしよう、私、どうしたら良いの?どうしたら良いんですか?ああ、困っちゃった、まずは何すれば良いんだろう?ねえ、どうする?どうすれば良い?

 独り言なのか、祈りなのか、わかんない状態で、自分の部屋を、アッチへ行っては、コッチへ戻る。

 母親がドアをノックした。

「ミユちゃん、どうかしたの?」

 扉の向こう、耳をそば立てて、こっちをうかがっている様子が、目に浮かぶ。

「何でもなぁ〜い」

 母親は、私が十三歳の時に、家に来たステップマザーで、ウチらはあんまし相性が良くなかった。父親の目を気にして、私に優しく接しようとする彼女の態度に、白々しさを感じて、感謝よりも、嫌悪が先にたった。

 親になんてさ、そうそう簡単になれるもんじゃない。私の母親になれるだなんて思わないで。彼女は努めて優しくしてくれた。けど、私が、母親にも同じことをするのは、無理だった。自分でも嫌な娘だと思う。でもさ、出来ないの、親子ごっこなんて無理。今更、必要ない。

 そんな私が。

 親になるなんてさぁ、授かっちゃうなんてさぁ、もっと先の話、ずっと未来のことだと思ってた。親になれるような生活力も、家事力も、自信も、情熱も、準備も、ない。

 それでもね、私が産んだのは、ひとえに、彼を信じたからだった。

 その日、いつもの待ち合わせ場所、駅の歩道橋広場にある石のベンチで、彼を待っていた。広場はいつも、鳩でいっぱい。

 このベンチ、大理石なの?お尻がすごく冷たくて、ひょっとして、お腹の赤ちゃんに悪いんじゃないかなぁ?なんて考えている時。

「あれ?ミユ、今日は早いじゃん?珍しいね、待った?」

 ヌーッと現れた彼。いつもと全く変わらない。

「あのさ、話があるの」
「なに?どうしたの?」

 彼、マサハル、二十九歳。

 グレイのパーカーに、色あせたベルボトムのジーンズ。くたびれたビーサンをつっかけて、髪は伸び放題、ヒゲが薄くて、ネズミ男みたい。なんかさ、昭和の若者特集みたいな動画で見た、フォークソング世代の人みたいでさ、全然パリッとしていないの。妊娠を伝えようとしている私だけどさ、なんだか、はぁ〜ぁ…っとため息が出ちゃう。だって、絶対受け止めてくれそうにないんだもん。

「なんだよ?どうしたんだよ?話してみなよ」と笑顔。

 この笑顔が、多分、彼の唯一の魅力だろう。笑うと、目が、漫画で描いたみたいな半月になってさ、可愛いの。

 マサハルとは、ハローワークで出会った。彼が端末で求人を検索している姿は何度か見てた。だってあの職安、席が少なくて、取り合いになる。いつも居る顔はすぐに覚えちゃう。彼から、お茶に誘われた時は、え?ここでナンパ?キモッ、と思った。とは思ったけど、笑顔にやられた。

 あの時は、お互い無職だった。時間があった。話も意外に合った。お金がないから、ファーストフードのデートだった。でもさ、彼は、今でもまだ、無職のままなのよ。このコトひとつとってみても、私たちの将来ってさ、希望、薄くない?

 実をいえば、彼のことも、まだよく分かってるとは言えないかも。何を目指して生きてるのか。どんな夢があるのか。絶対に譲れないことはなんなのか。そんな大事なことも知らないのに。結婚なんて、無理だよ。まして出産なんて。だいたい私たちには先立つものが無い。選択肢がない。だから、どうにもならないのよ。話したって展望がない。

 彼のことは好きだけど、愛してるかと問い詰められたら、きっと私、よくわかんない。


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