私が見ているものは、夢とか愛じゃない、現実なの。
父を亡くし、進学も夢も諦めて冷淡に日々を過ごすJKのサキ。ある暗い夜、自転車が故障し立ち往生する彼女の前にひとり、四十がらみの男が現れる。変態かも恐れるサキだったが、善意で差し伸べられた手に触れたとき、彼女の中で何かが弾けた。十八才で初めて知る、理屈じゃない恋の熱。あの人にもう一度会いたい。募る想いを抱え、彼女がたどり着いた再会の場所で目にしたものとは—
#エモチックロマンス
#会いたいんだってば
#広ヒロスケ

会いたいんだってば
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授業が終わって駐輪場に出ると、ハヤオが立っていた。
「よお、サキ、これからバイト?」
「そうよ、じゃーね」
「あのさ、サキ」
「え?」
「今度の土曜日さ、俺と…」
「あー、ダメダメ、私、バイトだから、じゃーね!」
バイト代で買ったイーストボーイのスクバを、自転車のバスケットに丁寧に入れる。型崩れしたら嫌ナンだもん。これまた超お気に入り、スコティッシュトラディションのマフラーを首に巻き直して、私は、自転車を走らせた。
ハヤオは、私に気があるみたい。
ときどき目が合うってことは、向こうは、私をよく見てるってことだよね。でも、ウチの心は、それほどでもなく。いや、別に、興味ない。ちょっと冷たくし過ぎなのかもしれないけど、ヘンに気を持たせちゃうのはもっと罪深い。
三月になれば、もう私はJKではなくなる。
卒業後は、ビジネス経理の専門に行くことが決まってる。昼、働いて、夜、学ぶ。その翌年には社会人になる。
一年前にパパが亡くなって、苦労した。大学進学を諦めて、専門にした。経理に決めたのは、授業料が安かったから。それに経理は食いっぱぐれがなさそうだから。
私が見ているものは、夢とか、理想とか、色恋とか、愛とかじゃない。現実なの。
夢見てる暇なんてない。明日を信じてなんていられない。
バイト先のファミレスで、ママからの電話を受けて、その日、私は、急遽、家に帰ることになった。
夜七時を過ぎた頃で、店は、本当ならすごく忙しい時間帯なのだけれど、最近、突然、全世界に巻き起こった、変わった肺炎の騒ぎで、お客様がとても少なく、店長に相談したら「了解、気をつけて帰りな」ということで。
私は、メイドみたいで可愛いから大好きでお気に入りの、店のユニフォームを脱いで、学校の制服に着替えた。
途中、階段で、マヤとすれ違った。彼女は、親友で、クラスメートで、バイト仲間。
「あ、ウチ、今から帰るから」
「へ?なんかあったの?」
「ちょっとママがさ…」
「そうなんだ、サキ、気をつけてね」
「アッ、これ、ホイッ」
マヤが私に小さな箱を放り投げる。
いつものチョコビーンズ。彼女はこれがないと生きられない。
「ありがとな、ブンメイ!」と私がいうと。
「てめえ、今度、それ言ったらブッ殺す!」マヤは拳を見せた。
彼女は、マヤ文明と呼ばれることを嫌がる。嫌がることでも言えちゃうのが、仲のいい証拠よね。
パパが亡くなってから、ママは、ちょっとおかしくなっちゃった。よく泣くようになったし、家事も疎かになった。具合が悪いと、布団から出られない日もあったりする。
あの人がそんなに好きだったっていうの?
正直、私にはその気持ちがわからない。私は、父が好きじゃなかった。私の自由を奪う存在だったから。愛されているのかどうかもわからない。ウザイが過ぎて、親の愛なんてどうでもいいとか思っちゃう。それほど、鬱陶しい人だった。
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