幸福の黄色いパンティ

 正直に言うとさ、半分くらい後悔してる。この女と暮らすようになったこと。

「俺は、こいつとの同棲を半分後悔している」三度目の転職で崖っぷちの原コウイチは、奔放でだらしない恋人ナオミに苛立ちを募らせていた。盛り付けの汚いオムライス、脱ぎ散らかされた黄色いショーツ。だが、人生最大のプロジェクトと健康診断の悪い結果が彼を襲ったとき、絶望の淵で聞こえてきたのは、ナオミの小さな声だった。

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 正直に言うとさ、半分くらい後悔してる。

 この女と暮らすようになったこと。後悔っていうと、ちょっと違うかな。なんだろ。よく分からない、自分でも。複雑な心境であることは間違いない。

 今、彼女はソファーで横になって、グースカと眠っちゃってるけどさ。

 腕がダラリとぶら下がって、半開きの唇にう~っすら唾液をにじませて、目もごく薄ぅ~く開けちゃってさ。Tシャツがめくれ上がって、白い腹の真ん中、深く凹んだヘソが、呼吸に合わせて動いてる。

 それにさっきから、彼女の寝息が俺の首筋に当たってさ、こそばゆくて、気になって、仕事に集中できないんだよね。

 明日は大事な社内プレゼンが控えてるんだ。パワポのデータを見直してる。曖昧なところを、完全に潰しておきたいわけ。相手は手強い本部長だから。

 女の鼻息を避けるため、ちょっと腰の位置をずらして、ラップトップに向き直った。

 その時、プゥ~ッと、女は屁をヒリた。

 乾いた音だった。赤ん坊のそれみたいな、軽くて意味のない。ただ単なるガスの放出。振り返って、その寝顔を見る。

 色白。ぽっちゃり。頬は薄桃色。ニキビも、シミも、シワもない。唇のはじに溜まりをつくった唾液が今にもひとすじ垂れてしまいそう。

 ティッシュを抜き取り、こぼれる前に吸い取った。

「ん~?」

 女が目を覚ました。

「あ、コウちゃん、おかえり~」

「あ、ああ、ただいま…、俺、仕事中なんだけどさ…」

「ふぁ~っ」

 でっかいアクビをこく。

 奥歯のそのまた奥に、のどチンコが見えた。この女には虫歯が一本もない。そして、完璧な歯並びが彼女の自慢だ。

「コウちゃん、お腹減ったでしょ?すぐ作るね、ちょっと待っててよね」

「いや、だから俺、仕事中でさ…」

「何でもいいよね?」

 こっちの話など聞く気がない。

「だから、今は仕事で手が離せないから…食べるのは…」

 無視して、キッチンに向かう。

 女が履くゴムの緩んだスウェットパンツから、黄色いパンティがチラリと顔を覗かせていた。それは彼女のお気に入りで、スヌーピーとウッドストックがプリントされている。

 どこか悲しげでもあるウッドストックが目に入った時、俺たち二人の出会いを思い出した。

「コウイチが契約を獲ったぞ、こりゃお祝いだ!」

 今の会社に転職して、初めての受注を獲得した日。係長が設けてくれた酒の席に女は居た。その店のホステスで、名をナオミと言った。

 驚くほど白い肌だな、というのが第一印象。

 髪は細くて分量も少なく、コシがないのか、頭皮に海苔や海藻類が貼り付いているようだった。花柄のワンピース。全然似合ってない。俺の好みとは真反対のタイプ。出来れば俺の横に座って欲しくはなかったのだが。

「あ!ナオミちゃん、ナオミちゃん、ナオミちゃん」

 と、係長が彼女を三度呼んで、俺を指差す。

「コイツさ、原っていうんだけど、今日、初受注ゲットしたんだよ、祝ってやってよ!」

 と余計なことを言うから。

「あらッ!おめでとうございますッ♪」

 ナオミは俺の横に来て、ドッサと腰を下ろす。伝わる衝撃から、ソレ相当な重量であることが分かった。

 彼女の体重で、ソファが想像以上に深く沈みこんだ拍子、チビで痩せてる俺は、女に吸引されるようにそちらへ傾いて、ふたりの体は、ピッタリとくっついた。

 それを見た係長が。

「あれっ?良いなふたり。なんかスゴくお似合いじゃね?」


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