イイネがついたのを確認して、もう一度、空を見た。青が、まぶしかった。
事業の失敗と離婚で、すべてを失い、自らの格好悪さを認めて「空」に自分を放った元社長の男。親の血に絶望し、空虚な日々の中で「空」に救いを見出した女子高生の初音。SNSに投稿される空の画像を通じて、顔も名前も知らない二人の孤独な魂が共鳴していく…
#エモチックロマンス
#あの空のあの人
#広ヒロスケ

あの空のあの人
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イイネがついたのを確認して、もう一度、空を見た。
青が、まぶしかった。
ハートマークをくれたその人を想った。どんな人なんだろう。もう一枚、写真を撮る。空の写真を。SNSに、空の画像をアップするようになったのは、一年くらい前のことだった。
当時、色々あった。会社を取られたことと離婚とが重なった。
友人からの連絡。
海辺でお前の奥さんを見た。見知らぬ男性と寄り添って歩いてた。深い仲としか思えなかった。
「お前、いいのか…?」
友人の親切心が煩わしかった。
「知らせてくれて、ありがとうな。でも、何かの間違いじゃないかと思うんだ」
言われるまでもなく、そんなことは分かってたんだ。思えば一緒になる前から、彼女にはいつも誰かの影があった。
そんな彼女を俺は憎み、そして愛した。
苦しかった。
なぜ、あんなにも彼女に執着したのか。今でもわからない。プライドだったのか。
彼女にとって、俺は夫でなく男でもなく、金蔓だった。
彼女が俺を見る目には、いつも打算の色があった。愛と生活は別。でも、苦しみの理由、一番はそれじゃない。
彼女は、唯の一度も、俺の手に落ちなかった。寝室では決して重ならない視線がすべてを物語る。決して心を許さなかった。身体は自由にさせても、魂の奥底は決して見せなかった。
それが悔しかった。
一番大事なものを共有されない淋しさがあった。それが何より痛いことだった。
離婚を切り出したのは向こうだった。
会社のキャッシュフローが悪くなり始めていた。俺の焦りと緊張を敏感に感じとった。直感の鋭い彼女は、確信したんだろう。ダメになると。会社も、俺も。
果たして、その通りになった。
すんでのことで、倒産は免れた。俺は経営権と夫の立場を失った。二十代で築いたものが、音をたてることもなく瓦解。少しばかりの預金と、孤独とが残された。
三十歳直前、男の人生で、こんな負け方をする奴があるだろうか。俺に生きる価値などない。そう思った。
死にたいと願った。同時に、死にたくないと抗った。
これほどの恥辱にまみれ、それでもオメオメと生きようとする己の魂に、猛烈な嫌悪を感じた。
死にたいと思うのは、格好がつかないからだった。
あれほど惨めったらしく、人生に敗北し、世間に恥をさらし、完全に面目を失った自己像を呪ったからだ。
自分が可愛い。
この思いを認めないワケにはいかなかった。情けないこと極まりない。だが、死ぬのは怖い。そんな己の、性根の醜悪さを目の当たりにした。そして、俺は、笑った。
カッコ悪い。
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