君とのラーメン一夜

だったら、私と一緒に、まあまあを最高にしてみませんか?

外資系企業に君臨する絶世の美女マネージャー・サユリから転職の打診を受けた杉山。サユリのその美貌は「ヘレネの再来」と囁かれるほどだが、彼女には厚い壁があった。仕事で成果を見せても、洗練された口説き文句でも、彼女はなびかない。しかし、残業後のラーメン屋で、彼女の「真実の姿」が露わになる――。

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君とのラーメン一夜
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 ヤられた。

 女への下心に釣られる形で、転職することになった。

 転職にあたってのインタビューをその女性から受けた。ライバル会社の人事担当だと思う。

 彼女、美形どころの騒ぎではない。あれはきっと、ヘレネの再来だ。その美貌ゆえ、トロイア戦争のキッカケとなった妖婦である。それくらいの破壊的魅力がある。色が透き通るほどにも白く、栗色に染めた髪が繊細で柔らかそうで。真っ赤な口紅と光沢が、官能的で、白痴美じみた危うささえ感じさせる。とにかく唇の印象が強い。白い肌と赤い唇の鮮やかなコントラスト。こんな人、見たことない。

 名を、サユリといった。その美しさにふさわしい名前だ。

「杉山さん、今のお仕事にご不満はありませんか」

 彼女は、テーブルに肘をついて、ねっとりとした視線を送りつつ、まるで恋人に語りかけるかのように俺に、尋ねる。

「今は、まあまあ…ですかね…」

 俺の返答は、中途半端になる。彼女に見惚れて、思考が働かないんだ。

「そうですか。だったら、私と一緒に、まあまあを最高にしてみませんか?」と微笑んだ。

 ヘレネが俺に微笑んでいる。

 私と一緒に、まあまあを最高に?

 何だよ、そのイカした台詞。

 グッと来た。

 それまで勤めていた会社には、勢いもあったし、仕事に面白さも感じていた。不満がなくはないが、そこそこ充実していた。先日、最近ヘッドハンターの職に就いたばかりの友人から連絡があった。高校野球部時代からの腐れ縁。

「今月数字が足りないから、形だけでも構わない、どうしても会ってくれ、頼む」

 何度もうるさい。長い付き合いだから、断ることも難しい。

「仕方ねえな、お返しに飯でも奢れよ」

「寿司へ行こう、数寄屋橋の次郎でどうだ?」

「次郎かよ?凄えな!了解!」

 美味いものに釣られて面談をブッキングすることにしたが、そもそも転職は全く考えていなかった。

 彼女に陥落させられたのだ。ヘレネを見ていると、内側が掻き立てられる。男の野心がムクムクと勃ち上がる。

「それじゃあ…転職、お願いしてみようかな」

 中途半端な答えを彼女に返したが、彼女は、真っ赤な唇の端を上げ、ニーンと笑う。

「決まりですね、よろしくお願いいたします♪」

 その笑顔は美しかった。これまで出会ったどんな女性より、何段も、何倍も、輝いていた。

 俺も決めた。

 あなたが欲しい。

 俺の彼女にしてみせる。

 必ず。

 転職先は同業である。クラウドに強みを持ったコンサルソリューションの外資系企業。成長という面では、前の会社を軽く凌ぐ勢いがある。

 出勤初日にまた驚いた。

 彼女とロビーで待ち合わせ、入館証を受け取りゲートを抜け、オフィスのフロアがある三十一階までエレベータを昇る。

「杉山さん、今日からよろしくお願いしますね」


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