もう!テイちゃんなんて大ッ嫌い、あなたのそういうとこ…ダイキライッ♪
几帳面で神経質なテイゾウの暮らしに、ある夜突然入り込んできたのは、焼き鳥屋で働く天真爛漫なヒロミだった。やや常識に欠け、段取りもズレまくり、醤油差しもハサミもどこかへやってしまうような彼女は、失恋で壊れかけた男の部屋に、そのまま居ついてしまう。乱雑で可笑しくて、だけど妙に温かい日々。そんなふたりの奇妙で愛おしい同棲生活に、ある日、テイゾウの携帯に元カノからの着信音が鳴る——。
#エモチックコメディ
#あなたのそういうとこダイキライ
#広ヒロスケ

あなたのそういうとこダイキライ
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「もう!テイちゃんなんて大ッ嫌い、あなたのそういうとこ…ダイキライッ♪」
そんな言葉とは裏腹に、ヒロミは背後から俺を抱きしめて、自分の胸をムニュリと押し当てる。その感触は、なかなかのモノ。バストの先っちょがツンツンと俺のオトコをこじ開けてくる。
思考の焦点がぶれて考えがまとまらない。俺は彼女に対する感情を停止させられ、何に対して腹を立てていたのかを忘れてしまう。
「ああ、くそっ、もう全部、あとからでいいや…」
振り返りざま、唇で唇をふさぎ、小憎たらしいヒロミを黙らせる。
その朝、俺が気に入らなかったことは、卵焼きに垂らす醤油についてだった。正確にいうなら、醤油の小瓶についてである。
俺は、甘く焼いた卵焼きに、一、二滴の醤油を垂らして食べる。もちろん味付け調味料として、醤油は卵焼きに入っている。しかし俺は必ず、焼きたてでホクホクの上に、フレッシュな滴りを落とす。毎朝の約束である。
あのカラメル褐色の、豆と酵母と旨味が、卵焼きと複雑に入り混じる芳香を感じながら、白飯を食べたい。それが俺の朝食の喜びなのだ。もし、これを享受できないというのなら、朝メシなんて虚しいものではないか。
だから、俺は譲らない。一滴、二滴の雫を、望み通りの場所へ落下させるのにちょうどいい、醤油さしについてはこだわりがある。かっぱ橋道具屋筋を回って、最高のものを苦労して探したんだ。
ところが、である。ヒロミは、俺の大切なガラスの小瓶をどこかへやってしまった。いつの間にか行方がわからない。
「ねえ、醤油、取ってくれる?」俺が頼むと。
「うんッ♪」元気に応えて、一リットル入りの醤油ボトルをドンッ…とテーブルに置いた。
「なあ、あの醤油さしは?」
「だから、どっかに行っちゃったの。多分棚の何処かにはあると思うんだけど…ゴメンね♪」と笑顔。
渋々、俺はその大きなボトルを皿に傾ける。たっぷり入っているから垂らす角度が難しいんだよ。力加減がちょっと狂って、予想外、注ぎ口から液体が大量にこぼれ落ちる。黄色い卵焼きが、茶褐色の液体に浸ってしまった。
それを見たヒロミは「キャハハッ!」と声をあげる。
「あああああ、なんだよぉ~。だからさぁ、アレが必要なんだよっ。もう、まったくさぁ、あーあ、こんなになっちゃったよぉ~!」
不機嫌になりつつある俺の顔をチラッと見て彼女は。
「大丈夫、ホラ、私の方にも頂戴よっ♪」
俺の皿を自分の玉子に傾けて、余分な醤油を移動させた。しかし、その汁は皿の縁を伝って、結構な量が外へ滴れ落ち、テーブルが見苦しく汚れてしまった。
「こぼれた~っ♪」
それでもヒロミは楽しげである。
サッと早技で抜き取ったティッシュに汁気を吸わせ「ほらっ、食べよっ!」とひとくち頬張り、俺を睨みながら、鼻にシワを寄せて笑った。
俺は、テーブルに残ったボトルの跡、丸い茶色の、醤油が作った輪っかを見て、ため息をつく。
「え?美味しくない?」
「いや、旨いけど、旨いんだけどさ…」
「けど、な~に?」
「もっと綺麗に食べようよ。やっぱり、醤油さしは必要だよ。出しといてくれる?」
「え~っ?でもさぁ、あれってぇ、すぐに出口がカピカピになって詰まるし、瓶もベトベトになっちゃうし、補充するのも面倒いしね、アタシ、好きじゃないんだ~」
玄関で俺はジャケットを羽織り、革靴に足をツッコミつつ、ヒロミに言った。
「必要だって、俺が言ってるんじゃないか」
靴べらを、下駄箱所定の位置に戻す。
「そんなに怒らないでよぉ~。怒ったテイちゃんはカッコよくないよ、素敵じゃない」
ブリーフケースを受け取った俺の左腕に、豊かなるバストを押し付けて、彼女はニーンと、前歯を露わにして笑ったが、側切歯と犬歯の間に、緑色のネギが見えた。
「ヒロミ、歯に何かついてるよ」
そう指摘すると、ベロで上唇の中をまさぐり「テイちゃんのイジワル…」と囁く。
ヒロミの小声が、俺の胸のウチを這い回ってくすぐってくる。上目遣いが、小悪魔的なのである。
「でも、そんなことどうでもいいからさ、今夜から、小ビンを使えるようにしといてよ、出しといてな、頼むから、な、わかった?」
「… … …」ヒロミは不服そうに黙ってる。
「なあ、返事は?返事しろよ?」俺は怒ってるんだ、一応は。
「もう!テイちゃんなんて大ッ嫌い、あなたのそういうとこ、ダイキライッ♪」
背中に、彼女の柔らかなものを感じて、俺は理性を失う。
玄関アルコーブでヒロミに口づける。壁に押し付け、彼女の頭をつかみ、髪に触れ、うなじに触れ、接触した唇をさらに強く当てて、彼女の荒く乱れた息を感じながら、今夜のベッドを思う。彼女を抱きたいと願う。
